国指定重要文化財・ 川端御亭(長流亭)

               明治期撮影

西北面全影


大聖寺藩三代藩主前田利直の休息所として、宝永6年(1709)に、藩邸の庭園の一隅に大聖寺川を臨むように築かれた亭舎(茶室)です。

当初は「川端御亭」と呼ばれていたが、後に利直の雅名からとって「長流亭」と称されました。

小堀遠州の設計とされ、建物は、桁行5間(9.5m)梁間4.5間(8.4m)で南面に玄関を配し、東面に土庇が附く一乗寄棟造、こけら葺です。※1


西南面全影


平面は、中央部2室(各6.5畳)をそれぞれ床の間(畳敷)付座敷とし、その四周に1間幅の入側(畳敷)を廻し、南面西より1.5間に1間の玄関、東面北より1.5間に袖壁付の板縁を出しています。

昭和9年に国宝に指定され、翌昭和10年に解体修理が施されましたが、当時は災害が多く昭和23年福井地震、昭和27年大聖寺沖地震、昭和28年洪水による床上浸水、昭利37年第二室戸台風等に遭い、数次に亘り復旧工事が行われました。


東北面全影


昭和38年には河川改修による水量変化で浸水が度重なることから地上げ工事が行われ、昭和52年に屋根の葺替を中心とする内外の部分修理が行われています。

幸いにして、昭和9年の未曾有の大火からは難を逃れ、他の災害による全壊や焼失からもまぬがれ、建立から310余年の今日も、江沼神社の西北隅に位置し、旧大聖寺川の流れに江戸時代中期の四柱造りのおちついた佇まいは、当時の気風や意匠を今日に伝え、その姿を流れる川面に写しています。

昭和25年文化財保護法の施行により、国指定重要文化財に改称されました。



玄  関

玄関は2階の木製階段を上がって榑板式台から桟唐戸を開けて入るようになっています。

板は砂摺で、上部に黒漆塗仕上げの透かし彫りが施されていて、この装飾性こそ、単純明快で端正な本亭のデザインを補って魅力ある格調を作り出しています。


北入側杉戸(一の間と次ぎの間の境、入り側の帯板戸)

杉板戸には 花菱宝紋の彩色画が施され格調を高くしています。

これらの七宝模様は遠州好みとされ、本亭が小堀遠州の設計だといわれる由縁でもあります。

杉戸の上部には、普通なら竹の節の欄間をつけるところ、ここでは木の中束を2本建てて 本物の竹を斜めに組み、かなりくだけた雰囲気を醸し出しています。

少し粗野に見えますが、不安定さが 尚更心に残ります。

この竹の欄間は、本家加賀藩の藩主や上級の来客がある毎に、新しく青竹で設え お迎えしていました。



次ノ間内部

落掛けの自然の曲がり木が 結構さまになっています。

床脇から一の間への仕切襖にかけて松島の墨画が描かれています。正面が白い無地になっているのは、当初は墨画が連続して描かれていたのでしょうが、いたみが甚しく補修のときに塗替えたと思われます。


南入側西望

藩主・利直は川に面する入側で、亭に居ながら糸を垂れて釣魚を楽しもうという魂胆があったようです。川に面する窓には腰壁がついていて、その上に八角の棒が 3本横に廻してあって、危険防止の役を果たしていました。

ここからの田園の眺めは絶佳でしたが、利直が釣魚を愉しんだのは 僅か2ヶ月でした。

利直は、幕府からの覚えが目出度く、12年の間、将軍綱吉に近侍するという外様大名としては破格の待遇を受けていたために 再び江戸へ呼び戻され、彼の地で帰らぬ人となりました。

川に面する二面の窓は、他国(越前方面)からの侵入を監視する役目も担っていました。


内部平面図



※1  写真は、明治に撮影されたもので、屋根が瓦葺きになっています。その後改修され、元のこけら葺きに戻されて現在に至っています。

杮葺(こけらぶき)は、屋根葺手法の一つで、木材の薄板を用いて施行したもので、日本に古来より伝わる伝統的手法で、多くの文化財の屋根で見ることができます。

木質を用いた屋根葺きは、世界各地で見られますが、日本の杮葺きのように華麗なまでに昇華させた地域は他にはなく、誇れる日本の建築文化の一つです。

川端御亭の大屋根は杮葺の寄せ棟造りですが、起り(むくり)がなく直線的で軒の出が短いのは、雪国故なのですが、建物全体に『詫び・寂び』を感じさせてくれます。

棟も鬼板も石で出来ていて格調が高く、日本でも最高位の杮葺といわれています。


大屋根 全影(令和2年 撮影)


屋根詳細(昭和52年 撮影)

参考文献 ‥‥ 和風建築 16号(建築資料研究社) 



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